Looopとエネチェンジが再エネ投資ファンドを新設

エネルギー情報サービスを幅広く手掛けるENECHANGE(エネチェンジ)と新電力のLooop(ループ)は2020年4月、海外特化型の脱炭素エネルギーファンドを設立したことを発表した。ファンドの名称は、JAPAN ENERGY FUND(略称JEF)。日本企業による海外への再エネ投資の新たな受け皿となる。ファンドの運営は、ENECHANGEとLooopが共同でJapan Energy Capital合同会社を通じて行う。

 

第1号投資案件はトルコの太陽光発電所

この日、明らかにされた最初の投資案件は、トルコ共和国デニズリ県で稼働している約13MWの太陽光発電所で、共同運営権を約1000万ドル(約11億円)の出資により取得するというもの。これを含む第1号ファンドは、1億ドル(約110億円)規模での事業展開となる見通し。ファンド組成日は2019年12月、運用期間は2029年12月までとされる。

 なお、同ファンドへは、北陸電力と大和エナジー・インフラが、リミテッドパートナーとして参画することを決定している。今後、脱炭素・ESG投資を実施する国内外の投資家を募集し、JEF全体としては総額1000億円規模にまで拡大することを目指す。

主要4社の役割分担は、以下の通りだ。

  • ENECHANGE:欧州・中東など海外での事業実績と、エネルギーデータ解析技術基盤
  • Looop:再エネ発電所の開発、運営実績に基づく発電所案件の精査、技術知見の提供
  • 大和エナジー・インフラ:国内外のエネルギー分野における投資の知見と実績
  • 北陸電力:総合エネルギー企業として長きにわたる電力事業の経験値を軸に発電所運営の技術知見の提供

新興国への再エネ投資でSDGsに貢献

 JEFが投資方針として掲げるのは、「再生可能エネルギー投資」と「エネルギーベンチャー投資」の2つ。具体的には、エマージング諸国(新興国)の再エネインフラへの投資と、先端技術をもつ欧米諸国のエネルギー系ベンチャー企業への投資を軸とする。ENECHANGEとLooopは、こられエネルギー分野への投資促進により、SDGsの17目標のうち、次の5つの目標への取り組みが強化され、結果として持続可能な社会の実現に貢献し得るとアピールする。

JAPAN ENERGY FUNDが目指すSDGsの5つの目標 出典:エネチェンジ,Looop

 世界の機関投資家は、600兆円相当の化石燃料のダイベストメント(投資引き揚げ)にコミットしており、再生可能エネルギーへの投資額は2017年度時点で2800億ドルに達している。JEFは、エネルギー自給率が低く再生可能エネルギーによるインフラ開発の必要性が高いエマージング諸国を再エネ投資対象国とし、日本政府・対象国政府・地元事業者とも緊密に連携を図りながら、持続可能なインフラ開発を支援していきたいとする。投資対象国では発電所の運営・管理に不十分なところも多いことから、日本で培ったデータ解析や設備保守点検などの技術力・経験を生かして発電所のバリューアップを行い、発電量・収益性向上にも取り組んでいく考えだ。

 エネルギーベンチャー投資に関しては、ENECHANGEが運営する欧州エネルギーベンチャー開拓プログラムJapan Energy Challengeと連携し、エネルギー事業先進国である欧米諸国のベンチャー企業を積極的に開拓する。Japan Energy Challengeは、年間約200社の海外エネルギーベンチャーとの連携協議実績を有しており、そのネットワークは投資対象の選定にも活かし得るものと期待されている。技術的に先行する欧米ベンチャー企業への投資を通じて、日本の脱炭素化目標の達成にも寄与するようなオープンイノベーションの実現を図る。

 ENECHANGEの代表取締役会長兼CEOの城口洋平氏は、次のように述べている。「脱炭素・ESG投資の流れを受けて、中古発電所の投資・運営は、数十兆円規模にまで拡大すると見込まれており、当社は電力データ解析技術を軸に参入機会を探していました。今回は、大和証券グループ本社様と資本業務提携を実施することで、1000億円規模での投資が可能となるような高い視座で同分野に参入できることを、大変うれしく思います。電力データ解析を主軸とする当社グループにとって、データ解析がまだ十分にされていない海外の再エネ発電所のデータ解析業務およびそれを通じた発電所投資・運営は、当社の海外事業を飛躍させる大きな可能性を持っています」

トルコ共和国も全面支援を約束

 第1号ファンドにおいては、エマージング諸国の中でも、制度面での安定性と実績に秀でたトルコとヨルダンを投資注力国として選定している。また、最初の投資案件としてトルコの太陽光発電所が選ばれた背景には、同国人口の継続的な増加と拡大する電力需要がある。トルコの総人口は8,000万人を超え、その約半分が32歳以下の若年層で占められており、人口増加に伴い、経済成長や産業多角化が進み、電力需要が着実に拡大しているのだ。

 

 一方で、トルコのエネルギー自給率は25%(2016年)と低く、同国政府は2023年までに国産エネルギーである再エネ比率を30%へ引き上げることを目標に掲げている。稼働中の太陽光発電設備は約6GWに及び、エネルギー憲章などの国際協定にも参画している。また、欧州系を中心に既に多くの外国資本が参画しており、再エネ市場の投資環境が整備されているというメリットもある。

 

 初の投資案件となるトルコ・デニズリ県の太陽光発電所は、2018年5月に運転を開始した発電設備。トルコの首都イスタンブールの南約300km、標高約260mに位置し、13.514MWの発電容量を有している。同発電所には、トルコ国民約8,000世帯分の年間電力供給量に相当する22.5GWhの供給能力がある。この案件には日本のFIT制度に類似した制度が適用されており、所在地域の配電会社向けに、10年間にわたって1kWhあたり13.3セント相当(米ドル換算)の固定価格で売電することができる。

 

 Looop代表取締役社長CEOの中村創一郎氏は言う。「トルコは、その市場規模と成長性、高い再エネニーズ、投資環境の観点から優れた市場であり、JAPAN ENERGY FUNDの第1号案件として進められることを大変喜ばしく思います。トルコと日本のエネルギー事業者が再エネ事業を共同運営していくことで、二国間のエネルギー協力を民間レベルで実現する、意義深い取り組みです。また、トルコに続く案件においても、アセットマネージャーとして成功へ向けて尽力していく所存です」

 

 トルコ共和国も同ファンドを歓迎しており、駐日特命全権大使のハサン・ムラット・メルジャン氏は次のように話している。「経済成長と人口増加により、エネルギーと天然資源の需要が増加しています。トルコは近年、OECD諸国の中でエネルギー需要が最も急速に伸びており、今後10年間でエネルギー消費量を2倍にする目標を掲げています。こうした中、Japan Energy Fundによるトルコのエネルギー分野への投資は、双方にとってウィン・ウィンのアプローチになると捉え、全面的に支援をしていきたいと考えています」

 なお、この日の発表は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、トルコ大使館(東京都渋谷区)からオンラインで行われた。

 

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