市場シェア率とは
特定の市場全体において、自社の商品やサービスが占める割合のことを「市場シェア率」という。「市場占有率」「マーケットシェア」などとも呼ばれ、単に「シェア率」という場合も、ほとんどの場合は市場シェア率のことを指す。
一般的には売上金額が計算対象
一般的に、市場シェア率の計算には、商品やサービスの売上金額が使用される。金額以外に、売上個数や売上重量を用いるケースもある。なお、シェアという言葉を市場占有率の意味で捉えるのは日本のみであり、欧米でマーケットシェアという場合は、株式や株価を指すため注意が必要である。
市場シェア率は、「絶対的市場シェア率」と「相対的市場シェア率」の2種類に大別される。
絶対的市場シェア率
絶対的シェア率とは、自社の商品やサービスの売り上げが、市場全体の売り上げに対しどのくらいの割合を占めているのかを示す数値である。絶対的シェア率は、以下の計算式で導き出される。
絶対的シェア率(%)=自社の商品やサービスの売り上げ÷その商品やサービスが属する市場全体の売り上げ
たとえば、自社で取り扱うスーツAの売上高が5,000万円、スーツ市場における総売上高が2億円だったとすると、スーツAの絶対シェア率=5,000万円÷2億円=25%と算出される。
「市場」と「売り上げ」の定義によりシェア率は変動する
絶対的市場シェア率を導き出す際に用いられる「市場全体の売り上げ」に関しては、「何をもって全体と見るのか」を考えなければならない。たとえば、上記のスーツAを計算する場合は、スーツ業界を市場全体とする場合と、衣類業界を市場全体とする場合とで、シェア率の値が変動する。
また、絶対的市場シェア率では、市場の範囲を限定して計算することも多い。たとえば、スーツの場合なら、対象市場を「40歳以上」「東京都」などに限定し、シェア率を導き出せる。この場合、スーツ業界を市場全体としたシェア率は低くても、市場を東京都に限定した場合のシェア率は高くなるなど、限定の仕方により数値が大きく変わる可能性もある。
なお、売り上げの定義を変えることによっても、シェア率は変動する。たとえば、スーツの場合は、売上金額で計算した場合と、売上着数で計算した場合とでは、絶対的市場シェア率の値は異なるだろう。
相対的市場シェア率
市場全体の売り上げを対象として導き出す絶対的市場シェア率とは異なり、ある特定の競合他社におけるシェア率を対象として算出するシェア率が「相対的市場シェア率」である。以下の計算式で示される。
相対的市場シェア率(%)=自社が販売する商品Aの絶対的市場シェア率÷商品Aが属する市場の競合他社が販売する商品Bの絶対的市場シェア率
たとえば、自社のスーツAの絶対的市場シェア率が20%、ある競合他社のスーツBの絶対的市場シェア率が50%だったとすると、スーツAの相対的市場シェア率は20%÷50%=40%と算出できる。相対的市場シェア率は、業界1位のシェアを誇る競合他社を比較対象として計算することが多い。
目指すべき市場シェア率の値
アメリカの数学者B・O・クープマンは、市場シェア率と市場でのポジションを関連付けた、以下のような6段階の目標値を示している。シンボル目標数値とも呼ばれるこの数値を指標とすれば、独占市場のシェアをどれほど獲得しているのかをある程度判断できる。
・独占的地位(73.9%)
市場のシェアを独占しており、短期間におけるポジションの逆転はほとんど考えられない状態である。シェア率上位2社の合計値が73.9%以上なら「2大寡占」、上位3社なら「3大寡占」という。
・相対的安定(41.7%)
市場に参加している企業が自社を含めて3社以上ある場合に、自社が41.7%以上のシェア率を獲得しているなら、業界における強者であり安定的な地位にいると判断できる。企業が戦略を立てる場合に重視する目安の1つとされ、「40%目標」とも呼ばれている。
・業界1位の最低条件(26.1%)
市場をけん引する存在と呼ばれる最低ラインであり、26.1%あれば事実上の業界1位であることが多い。業界への影響力も依然として大きい。ただし、順位に関しては、2位以下との逆転も十分に起こり得る数値である。
・競争の拮抗(19.3%)
市場1位のシェア率が19.3%なら、シェア上位の複数企業が拮抗している状態である場合が多い。この数値から抜け出せば、他社を少しリードする可能性が高いため、競争が激しい業界においては、当面の目標を19.3%に定めることがある。また、業界トップ3を目指す場合も、多くの場合、この数値が当面の目標値に設定される。
・市場認知(10.9%)
業界において、一般消費者や競合他社から存在を認知されるラインである。本格的な競争に突入するために、目指すべき最低ラインであり、「10%足がかり」という言葉の根拠とも捉えられる。しかし、新製品発表や大幅値下げなどのキャンペーンを展開しても、業界への影響力はほとんどない。
・新規参入の目標値(6.8%)
初めて業界へ参入する際に目指すべき数値である。一般消費者が他人に言われて初めて思い出せるラインであり、市場で競争することが許される数値ともいえる。このラインを超えられない場合は、撤退を視野に入れることも多い。
以上6種類の目標値の中でも、73.9%・41.7%・26.1%は「クープマンモデルの3大目標値」ともいわれ、市場分析において重要視される数値である。実際に試算する際は、便宜的に75%・40%・25%と概数に置き換えて使用されることが多い。
市場シェア率を生かせる場面
市場シェア率は、以下のようなケースで役立てられる指標である。具体的に、どのようなことを知りたい時に活用できるのか確認しよう。
業界への新規参入を検討している時
初めて市場へ参入することを検討している場合に、市場シェア率は重要な指標として活用できる。市場における競合他社の数や、シェア率の拮抗具合などを分析すれば、どのように市場へアプローチしていけばよいのかを考える際の大きな材料になるだろう。
たとえば、1社が寡占している市場と、数社が拮抗している市場では、アプローチの仕方も異なってくる。参入する価値がある市場かどうかも、市場シェア率の分析で判断できることが多い。
市場でのポジションを知りたい時
事業を展開していく上で、競合他社との関係性を分析し、相対的な立ち位置を把握することは重要だ。絶対的市場シェア率を使うことで、自社の影響力が市場においてどのくらいなのかが把握できる。
また、相対的市場シェア率を活用すれば、競合他社との差を明確に割り出すことも可能である。今後の目標値を定量的に設定できるメリットもあるだろう。
自社シェアの特徴を細かく分析したい時
絶対的市場シェア率において、対象となる市場をさまざまな角度から限定すれば、自社のシェアの特徴を細かく分析できる。たとえば、年齢別や地域別にシェアを限定し、シェア率を算出することで、自社の商品やサービスがどのような層に受け入れられやすいのかが判断できるだろう。
このような分析をすれば、より力を入れるべき対象とそうでない対象との区別が明確になり、商品・サービスのコンセプトを変えたりキャンペーンを打ったりする際に、戦略を立てやすくなる。
市場成長率と組み合わせた分析方法
市場シェア率は単体でも分析材料として活用できる指標だが、市場成長率と組み合わせて使われることもある。代表的な分析方法が、事業分析フレームワークである「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」だ。
PPMとは
PPMは、戦略コンサルティングファームである「ボストンコンサルティンググループ」が、1970年代に提唱したマネジメント手法である。「問題児」「花形」「カネのなる木」「負け犬」と呼ばれる4つのフレームで、事業や製品のライフサイクルを考察できる、経営戦略分析方法である。
PPMでは、縦軸に市場成長率、横軸に相対的市場シェア率を設定し、事業・商品・サービスが4つのフレームのうちどこに位置しているのかを確認する。
縦軸の上方に位置するほど市場は魅力的であるものの、競争が激しくなるため、より積極的な投資を求められる。また、横軸の右側に位置するほどスケールメリットがあり、利益を確保しやすい状態であると判断できる。
ライフサイクルにおけるフレーム4つ
ライフサイクルにおいては、4つのフレームのうちいずれかのフレームに、事業・商品・サービスが配置されることになる。以下、それぞれがどのような状態を示すのかを簡単に解説する。
・問題児
新規参入時などのスタート時は、常に問題児に配置される。市場規模に合わせた最適な投資が求められる。販促などに積極投資し、花形への移行を目指す段階である。
・花形
花形に配置されていれば、市場における認知度が高く、順調に成長している状態だと判断できる。先行投資を償却しつつ、売り上げを確保しながら、さらなる成長を目指す段階である。
・カネのなる木
市場の成長は鈍化しているものの、相対シェアは高まっている状態である。40%以上のシェア率をキープできれば、排他的リーダーとして君臨できる段階だ。利益を確保しつつ、代替品へのシフトも検討したい。
・負け犬
どんなに優れた商品やサービスでも、ライフサイクルがあることを認識しよう。負け犬に配置される前に、市場から撤退していることが望ましい。
自社の立ち位置を知り戦略を練ろう
市場シェア率には絶対的市場シェア率と相対的市場シェア率があり、どちらも参入市場における自社の分析を行う上で重要視される指標である。これらの数値を使うことで、自社の立ち位置や取り扱う商品・サービスの特徴が判断できるほか、新規参入すべきかどうかも判断できる。
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